居酒屋「ほっときな」

ある寂れた商店街を歩いているとそこにポツリと居酒屋「ほっときな」と言う看板がある。私はそこの常連なのですが店にはカメラ大好きな人たちが集まり実に勝手な痴話話が展開しているのです。もしお時間がよろしければ貴方も一緒にどうですか?

写真の魅力って・・・

 

ちょっとあんた〜写真止めるってどうゆう事よ。」

一体何でしょうか。いつもは静か(単に入りが悪い)で平和な店の雰囲気がガラリと模様替えしてしまうこの声は・・・奥の席から凄い声が聞こえる。
よく見れば常連のこりんさんとカッキンさんのお二人ですね。また何かもめ事でしょうか。他人の事となると少し気になるので聞き耳たててみることにしましょう。

登場人物紹介

「カッキン」 本名は桂木 浩介
ニコンF5と大口径ズームレンズセットにオリンピック記念のプロストラップを付けこれでもかとばかりにいつも完全重武装なくせに写真歴2年の初心者。大工見習い25歳
F5・・・現在のニコン最高峰AFプロ用カメラ。最先端の技術を盛り込まれたサイボーグマシン?ボディのみで1210gにもなりEMの約3倍のうえ更に乾電池8本入る。

「こりん」 本名は小林 さおり
スラーっと伸びる脚線美と愛嬌たっぷりの笑顔が印象的で愛用のカメラはEMにAF単焦点35mm一本の割り切った撮影スタイルで写真歴4年。会社員OL26歳
EM・・・ニコンの一眼レフ最軽量カメラ。1980年3月〜1985年まで「女性向け」にと開発販売され絞り変更のみAE機で小柄で460gの軽いカメラ。いくらF80Dが軽いと言っても515gの上にリチウム電池2本に比べEMはボタン電池2個の差は歴然。

写真って一体なんなんじゃろう

「なんか最近おもしろーないいんじゃ。写真って一体なんなんじゃろう。お気に入りのF5と一緒に撮影地から露出や機材に気を使って今までは思った様に写真を撮れると感動したけど結局は綺麗にその場の情報を記録するだけじゃろ。俺がやってる事の意義っちゅもんが感じられんのじゃ。綺麗な風景写真を撮っても必ずもっと綺麗な写真ってあるじゃろ。」

「あんたの写真って本当に綺麗に実直に撮れとるんでそれはそれでええと思うんやけど私から見たらあんまおもろーないもんな。なんちゅうか魅力に欠けとるんよ。」

「ギク・・・そこまで言うか。それ落ち込んどる奴に言う言葉か?」

「だってカッキンのは状況写真みたいじゃない。まあ何を写真に撮るかなんてマニュアルは無いわけだし自由なんやけど私の場合はちょっと違うのよね。」

「そりゃこりんは人の表情とか行動を撮ってるんだから違うだろ。」

「そんなことあらへん。私かて人以外だって撮るし人の表情を記録してるつもりはないんよ。私自身が話して想像して色々感じる事を納めたいからシャッター切るんよ。」

「俺だって気になる物を撮っとるんじゃ。一緒じゃろうが。」

どうやら写真を撮る喜びは何だろうと言うお話みたいですね。今日のお二人は珍しくまじめなお話の様ですね。しかしこりんさんの思う写真の喜びは一体どんなものでしょうか。もう少し聞いてみる事にしましょう。

想い出製造機

「そらそうなんやろうけどカッキンと私はちょっと違うんよ。私先日おじいちゃんの五年祭に行って来たの。フェリーに乗って20分ほどの島に今は誰も住んでへんけど戦後におじいちゃんが自分で建てた家が有るのね。そこは子供の頃に遊びに行った時の想い出がいろいろ詰まってる場所でもあるんやね。」

「かなり田舎みたいじゃけど。でもいつも居た人に会えんようになるのは本当にさびしいけーのー。」

「でもねそこに行くともう居なくなった筈のおじいちゃんを感じる物が沢山あるの。洋服掛けに掛かった帽子や湯飲みの乗ったテーブル。海水浴から帰ってきた時に足を洗った洗い場とか色々眼に飛び込んでくるの。カメラを構えるとそこの風景や物におじいちゃんと一緒に居た時の事を思いだすんよ。」

「なんかいつの間にかええ話になっとるじゃんか。」

「やけど本当はね私カメラを始める前は全くそんなこと感じもせーへんかったの。案外平然とおじいちゃんの死もうけとめれたし私にも何の変化も無かったんや。」

「こりんは愛想はええが案外昔からそっけないけーのー。」

「でも上手くは言えんのやけど写真を撮り始めてからは色々な事を感じれる様になったり気付ける様になった様な気がするの。だから写真を撮ることってとっても大切で楽しいの。もっともっといろんな物を撮って沢山感じたいし、きっと今までよりたくさんの想い出が作れる様な気がするの。」

「と言うことは色々感じたり考えたり思ったりする事が出来る様になるから写真撮るってわけか。俺は今までどうやったら綺麗に正確に撮れるかばっかり考えてきたけー何かそんな気持ちを忘れてしもーとったんかもしれんのう。」

「もちろん私だって綺麗に写真をとれたら良いと思うんやけど写真ってピンぼけしてようが多少アングル悪かろうが中には雰囲気が伝わってきて「これっ」って感じる写真いっぱいあるやろ。案外後で思い出す写真ってそんな写真も多かったりするし。それってやっぱりその写真からその時の事を色々感じれたりするからだと思うんやね。私がその時その場で感じた事大切に切り取れてる写真だったら私の中だけではOKやったりするんよ。」

「ふーん。何となくじゃけどわかった様な気がするのう。「自分の為の写真」かー。そんなこと考えもせんかったのー。よ〜っしゃなんとのうやる気がわいてきたど。さすがは未来のわしの妻じゃ」

「誰が妻よ。」

「でもわしが写真やめたら寂しいけーそんな話してくれたんじゃろ。」

「そんなわけないやんか。あんたみたいな単細胞が側で落ちこんどると余計にむさくるしくって腹立つからよ。」

「単細胞・・・おまえ将来の亭主にむかって!なんて口のき・・いってー

「あんたのほっぺたって案外伸びるのね。」

人それぞれ

ああ良い話しだったのに結局こうなるんですねあのお二人は。さて皆さんの写真に対する思いはどうですか?もちろん十人十色の考え方や魅力がある事がカメラや写真をの奥深い世界にしているのでは無いでしょうか。このお話の続きは貴方の心の中でお願いしますね。では今日は私はこの辺で・・・「おやじつけといて」「ダメ「なんで」「溜まりまくってますよ。だんな」「そこんとこなんとか」「ダメ」

-2001.3.15